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『ゼロ・ダーク・サーティ』

03 23, 2013
原題『Zero Dark Thirty』 2012年・米 製作=アンナプルナ・ピクチャーズ
脚本=マーク・ポール 監督=キャスリン・ビグロー
出演=ジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラーク ほか

 観てから半月以上たつので若干今更感はあるがどうしても書き残しておきたかった作品。今回は『アルゴ』との比較をしつつ語ろうと思う。
 この作品と『アルゴ』は「CIA職員が主人公である、成功した実際の作戦を題材にした作品」ということで共通している。しかしこれほどにまで鑑賞後の感覚が違うのであろうか。ひとつには『アルゴ』の舞台と成った1980年という時代性の問題があるのも見逃せない。すなわち、映画との関連でいえばベトナム戦争以来のアメリカン・ニューシネマが終わりを告げ『ロッキー』に端を発する「ニュー・アメリカン・ドリーム」がスクリーンを席巻する時代となった、その時代の、しかもハリウッドを舞台のひとつとしていることは見逃せまい(この作品の時代性という点においてのみ、『アルゴ』アカデミー賞受賞に対する朝日新聞の記事については議論の余地がある面白い読み物だと私は思う)。これに対して本作は現在進行形の戦争を扱っており、実際に作品でも果たしてデルタ・フォースが殺害したのがビンラディン本人であるかどうかについてはややボカした描き方をしており、迷いが感じられる。この「同時代性」の問題が第一の大きな問題点である。
 もう一つの問題点は「当事者であること」だ。『アルゴ』では主人公がイランに単身乗り込んで作戦を実行する、これが緊迫感と観客の共感が生まれた、つまり観客が映画に引き込まれた最大の要因だろう。一方で本作はどうか。主人公のマヤはアメリカ本国から緻密に粘り強く膨大なデータを駆使してビンラディンを追い詰めていく(一部の評論ではこのマヤの執念を「狂気」としているが自分はそうは思わない)。しかし肝心のビンラディン殺害作戦実行はデルタ・フォースが行う、つまりクライマックスの中心に主人公は不在なのである。彼女はあくまでモニターから作戦の推移を見守る。そしてこの爽快感のなさは喜びに満ちるデルタ・フォースの面々の笑顔と対照的に描かれるマヤの無表情に強く代表される。ここにこの映画の真髄がある。それまでひたすらに展開とマヤの行動をただただ追い続けてきた我々観客であるが、ここに至り主人公たるマヤの感情と我々観客の感情はにわかにシンクロを始めてしまう。すなわちそれは「モニター」ないし「スクリーン」を見つめる傍観者としての感情であり、否応なしに映画が我々に歩み寄ってきてしまったとしか言いようがない感覚が生ずる。
 この二本は間違いなく「映画」であることを自己言及的に強く意識している。しかしその方法論は真逆である。この対照的な二本が1年の間に公開され、なおかつアカデミー賞を争ったことは非常に面白い。やや尻切れトンボだが鑑賞後に私が考えたのは以上のようなことである。

P.S.イラン革命と9.11後の違いにも言及しなければならないだろうが、知識も認識も不足しているので割愛させていただいた。
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GLUTTONY・GREED・SLOTH・LUST・PRIDE・ENVY・WRATH「Se7en」

04 11, 2011
監督:デヴィッド・フィンチャー
音楽:ハワード・ショア
出演:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー、○○○○・○○○○○ 他

雨の続く大都会。新任刑事のミルズと定年間近の老刑事サマセットはある事件現場に急行。そこにあった死体は信じられないほどの肥満だった。死体には食事を強制された後があり、殴打による内臓破裂が死因であることが判明、殺人事件として二人は捜査を開始。そして現場の冷蔵庫の裏からは脂で書かれた「GLUTTONY=暴食」の文字。
翌日、オフィスビルであこぎな商売で知られた弁護士の刺殺死体が発見され、床には血で書かれた「GREED=強欲」の文字が。
二人は犯人を見つけるべく捜査を行うが残るキリストの「七つの大罪」になぞらえた殺人は次々に発生、二人は完全に翻弄されていく...


言うまでもなく、監督フィンチャーとブラピの出世作です。
とにかく映画全体に流れる陰鬱な雰囲気とそれを視覚化し、全編に渡って降る雨。そして凄惨な死体の数々。
「銀残し」といテクニックを使っていますので非常にコントラストが強く、色の彩度は低い。これが余計に息苦しさを映像に付加してます。

モーガン・フリーマンは最初は嫌々ながらも徐々に事件に巻き込まれ、冷静に捜査を進めていく。
一方のブラッド・ピットは直情型の熱血漢でともかく突っ込んでいく。この映画しっかりバディムービーとしての要素もあり、二人が事件の謎を紐解こうとするところはたまらず面白い。

そして、ここ数年僕が見た映画の中でも抜群の最悪の後味。そして犯人「ジョン・ドウ」の目的とはいかなるものだったのか。これは議論の的になるところでしょう。

僕個人は、ジョン・ドウは天国に行こうとしていたのではないかと思います。「七つの大罪」はダンテ「神曲」煉獄篇に基づけば、罪を贖っている死者7人全員と語らい、山を登ることでダンテは天国へと昇天する。この映画でも「WRATH=憤怒」を除くいずれの死体も死までに多少時間があります。その間になんらかの語らいを行っていたのではないか。
繰り返される「この町」への人々の嫌悪感。その町から逃れる(=この世の終わり)ためにジョン・ドウは天国を目指したのではないでしょうか。

と、たまに慣れない拙い考察を試みてみましたが、これいかに。


ともかく全編ダークで陰惨な20世紀屈指のサイコ・ホラーでありました。
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All Work and No play Makes Jack A Dull Boy「シャイニング」

04 10, 2011
監督:スタンリー・キューブリック
原作:スティーブン・キング
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド 他

スティーブン・キングの傑作ホラー小説をキューブリックが映画化、世界的ヒット&高評価となったが原作者には酷評されたという不思議な作品。

失業中の主人公ジャック(ジャック・ニコルソン)は冬の間に閉館となるホテルの管理人を任される。そして彼は妻と息子とそこに住むが、次第にホテルの狂気に飲み込まれ、妻と息子を殺そうとする...


極めてシンプルな筋書きです。「名作はえてして単純である」とは伊丹万作監督の偉大な言葉ですがまあ大体その通り。
ともかくジャックニコルソンです。最初はスマイルが素敵な優しいパパとして登場するが次第に追い詰められ、不精髭が汚い感じに。そしてだんだん「Fack」を使う回数が増えていく。

サブリミナル的な映像、ステディカムを多用した主観の移動撮影など技術的ギミックも素晴らしい。

ただこの映画あんまり怖くない。Jホラー的なものを自分が若干期待しちゃったのもあるけど。一つだけ、エレベーターから染み出してくる大量の血の波は本当に怖い。予告でも使われてるけどアレは凄いね。
あともう一つ、ダニーが「REDRUM,REDRUM...」と言いながらそれを戸に書く、そして鏡を見ると「MURDER」はビクッと来た。

とにかくホラー映画ってより美しいものを見たって感じですね。アートというかなんというか。
ただ「interview」は「インタビュー」じゃなく「面接」でしょ!w
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理想化された自分もやはりペルソナ「ファイト・クラブ」

04 06, 2011
1999年アメリカ作品
監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、、ヘレナ・ボナム=カーター、ミートローフ 他

保険会社に勤める不眠症の男(エドワード・ノートン)。金には余裕がある。自分のマンションの部屋には様々な家具が揃っていて物質的には満たされている。しかし眠れない。そんな彼は難病患者の会に入り浸り、自己を相対化して生の喜びを噛みしめ、不眠症を解消しようとする。しかしその目論見も同じように難病患者の会に入り浸るマーラ(ヘレナ・ボナム=カーター)が登場してパアに。
そんなある日、ガス漏れが原因で彼のマンションが爆発、せっかく集めた家具もパア。そして彼は飛行機で知り合った石鹸製造業を営む男、タイラー(ブラッド・ピット)に電話を掛け、そして彼と二人で、「お互いを殴り合い、生の実感を得ることで精神の解放をもたらす」のを目的に秘密クラブ「ファイト・クラブ」を結成する...

これが冒頭。内容ぎちぎちでここから先はもはや予想の出来ない衝撃的展開で物語が進む、まさに「世紀末バイオレンス映画」。サブリミナル的に映し出される暴力・暴力・暴力。そして仲間内での快楽のあための暴力はやがて外側に向いていき「メイヘム計画」でその沸点へと突き進んでいく。そしてあのラストは...いやこれは言うまいw(すでにタイトルで多少ネタバレしてるけど)


誰かが映画レビューで「一生かかっても名作とは呼ばれようのない映画」と評していました。(無論好意的な意味で)
非常に攻撃的でとっても危険な香りが全編プンプン漂ってくるこの作品に確かに「権威」は無用。ともかくブラピは圧倒的な魅力をまとってこの映画に君臨している。「ジムに通ってる男がカッコいいと思うか?」「有名人ならリンカーンとやってみたい」「生を実感しただろう!」
そしてエドワード・ノートンはともかく野暮でダサい。しかし彼もファイトを積んでいくうちにだんだんタイラーのような口調になっていく...これまあ伏線なんだろうけどね。

この映画、やはりペルソナの話なのかな、偽りの自分を打ち破る、というより偽りの自分さえ受け入れる。よく分からないけど見た後非常に元気になる映画。と同時に非常に疲れる映画でもある。結局自分は一つしかない、やろうと思えば何でも出来る、というのを凄ーく逆説的に教わった気もするw

しっかし一人しか死んでないのにグロいよなあこの映画。最近フィンチャーの映画ばっか追っかけてる気もする。
ちなみに当初予定してた「ショーン・オブ・ザ・デッド」結局借りたものの見られなかった。いずれ必ず再チャレンジする。
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Time to Die「ブレードランナー-最終版-」

04 01, 2011
いわずと知れたリドリー・スコット監督の代表作にして現在も多くのファンを持つSF映画の金字塔。
原作はフィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」、特撮は「2001年宇宙の旅」のダグラス・トランブル、ビジュアル・フュ-チャリストには「エイリアン2」のシド・ミード、音楽は「炎のランナー」のヴァンゲリス。

さて、あらすじはいいでしょう。もう説明する必要がない。
前半の30分くらい、正直眠い。なんというかかなり段取り的なんだよね。

レプリカントが人殺す→デッカード呼ばれる→捜査開始→メインキャスト大体登場

のこの流れが。ここまではその世界観にどっぷり浸かれという事か。

しかし、一人目のレプリカントを見つけた後のレイチェルとのロマンスから俄然エンジンが掛かる。
さりげなくはさまれるユニコーンの夢、タイレルに会うものの結局自分達の寿命が4年であることが揺るがぬことを知るロイ、そしてセバスチャン家での最後の闘いへの流れは本当に素晴らしい。

うがった見方をしてしまえば壮大な恋愛映画という言い方も出来るかも。もちろん主役のデッカードとレイチェルのロマンスも描かれるが、より強く描かれるのはロイとプリス。そしてどうにもならぬ事実を知ったときのロイの絶望と凶行。目潰しという残忍な方法も怒りの矛先を求める人間の行動としては自然。

全編とにかく影が印象的。同列に並べて良い物か悩むが工藤栄一監督の「必殺Ⅲ」(こっちのが後)の最後の斬り合いを思い出す。そして異様に力強いサーチライトの明かりが常に部屋を這い回る。
ルトガー・ハウアーの笑顔は悪魔的で素晴らしい。「I've seen things you people wouldn't believe.Attack ship on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate.All those moments will be lost in time, like tear in rain. Time to die」この映画はこの台詞とロイがデッカードを見て言う「恐怖の連続だ、奴隷の仕事はな」の二つに集約されている。(と監督本人も言っていた)

またダグラス・トランブルの特撮も素晴らしい。酸性雨の降り注ぐ中、まるで裏路地のような町並み。そして飛び回るパトカー。この世界観は後々様々な映画・アニメで模倣されるけど今見てもまったく遜色がない。

そしてエレベーターが閉まると同時に流れるヴァンゲリス。もう鳥肌だね。
最近なぜかSFばかり見ているがやはり名作と語り継がれる作品は素晴らしい。

そんなこんなでベタ褒めになってしまったけど第一回としては下手にけなすよりは良いかな。
次回は「ショーン・オブ・ザ・デッド」の予定。

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