みなさま、あけましておめでとうございます。
昨年は観た映画が例年になく少ないだけでなく「これだけは!」と思った作品も多く見逃してしまいました。なのでとてもじゃないですがベストテンを出すことは出来ませんし、僕自身観てない作品が気になりすぎて選ぶことが出来ません。
そこで多少趣向を変えて、昨年の映画で気になったカットについて書こうと思います。ただ、記憶で書いているので間違っていることもございます、あしからず...とりあえず新作から9本です。
1、『ドラッグ・ウォー-毒戦-』(ジョニー・トー)より、中盤の銃撃戦
複数カットにまたがりますが、今年一番のアクションだったと思います。
2、『抱きしめたい』(塩田明彦)より、北川景子が酒瓶で男を殴るカット
粉々に割れる酒瓶が実に気持ちよかったです。映画の前半にこれがあったおかげで一気にのめり込めた。
3、『ジョバンニの島』(西久保瑞穂)より、ターニャのスケッチ
原画・森久司さん。本当に美しかった。宮沢康紀さんの機関車の光も素晴らしかったですが、悩んでこっちにしました。
4、『ミッキーのミニー救出大作戦』(ローレン・マクマラン)より、全部。
だって全編1カットなんだもん(笑)。とにかく観てください、おまけの長い映画は観なくてよろしい(笑)
5、『野のなななのか』(大林宣彦)より、主題曲が流れるカット。
パンフレットの対談で高畑勲がこの作品を「アニメーション」と表現してたけど、レイヤーで映画を切り刻み再構成するという野心的、かつデジタル時代の映画にとって最も根源的な試みがいちばん顕在化していたと思います。
6、『ぼくたちの家族』(石井裕也)より、池松壮亮が医者の話を聞くカット
寄りでプルプル揺れながらも池松の顔からカメラは離れない。全篇良いけども特にこのカット。
7、『青天の霹靂』(劇団ひとり)より、序盤の移動撮影
ビックリするほど良かったこの作品、冒頭のマジック長回しと悩んだがこっち。
8、『思い出のマーニー』(米林宏昌)より、マーニーの告白
原画・沖浦啓之。ようやく「空間的リアリズム」の確立の萌芽を見たカット(当ブログ『思い出のマーニー』の項参照)。それだけにジブリ制作部門の解体は切ない。
9、『三里塚に生きる』(大津幸四郎・代島治彦)より、序盤、会話が飛行機の爆音で中座されるカット
中座されながらも言葉を紡ぐ。その力強さと、その言葉の発動を許さない暴力的爆音。その相克が見事。
以上の9本です。昨年は途中から鑑賞リストを作るのをさぼってしまったので抜けがあるかも知れません。いずれも良い映画なのでオススメです。今年は更に本数が減ってしまうと思いますが、よろしくお願いいたします。
だいぶ期間が空いてしまいました。映画を無理やりに序列化する暴力性についても、本来は改めて考えなければなりませんが、本日もうキネマ旬報ベストテンが発表されてしまうということで、この記事が有効な期間もわずかだと思うので昨年の映画について書きます。
まずは新作邦画のベストテンから。
①ペコロスの母に会いに行く(監督=森崎東)
①かぐや姫の物語(監督=高畑勲)
③リアル 完全なる首長竜の日 (監督=黒沢清)
④風立ちぬ(監督=宮崎駿)
⑤共喰い(監督=青山真治)
⑥クロユリ団地(監督=中田秀夫)
⑦舟を編む(監督=石井裕也)
⑧凶悪(監督=白石和彌)
⑨日本の悲劇(監督=小林政広)
⑩さよなら渓谷(監督=大森立嗣)
ざっとランキングを見るとベストテン上位作品にベテラン監督の作品が集中し、ベストテンの下の方に気鋭の監督の作品がランクインされており、比較的バランスがいいのかなとも思います。デジタル撮影作品が7本、35mmフィルム撮影作品が2本、16mm撮影作品が1本と案外時節に乗っている気もしないでもありません(笑)
上位三作品について少し話しますと、映画というメディアに対しても、「生」というものに対しても、手放しの賛辞ではない「絶対的肯定」というものが見られたと思います。『かぐや姫の物語』については語り口は非常に多岐にわたると思いますが、その根源にはやはり「穢れた現世に対する肯定」というものがあったと思います。清水節さんの論評がよくまとまっていたのでオススメです。
『風立ちぬ』は『リアル』に通じる部分も感じさせる作品で傑作ではありましたが、『崖の上のポニョ』(2008)で見られた根強い死のイメージを払拭するどころか逆に具現化してしまっており、その墜落のイメージに対する懸念が頭をよぎりこの順位に置きました。「生」に対する観念をめぐる、上位作品に対する強烈なカウンターとしての意味合いもあります。
『共喰い』は映画オリジナル部分が白眉でした。祭りの前日に事態が急変するのは『ペコロス』とも繋がっている(もっと言えば『祭りの準備』を少し思い出しました)気もしますし、ラストの面会シーンは『かぐや姫』にも通じます。ただ、前半の濡れ場がやや淡白で、もう少し濃厚な「性」を見せて欲しかった気もしてこの順位に置きました。
『クロユリ団地』は当ブログにも書きましたが、非常に端正な作品です、逆に言えばイマジネーションがその端正さを上回らなかったとも言えます。それは『舟を編む』にも言えます。両作品ともに美術と照明は本当に素晴らしかった。
『凶悪』と『さよなら渓谷』はディテクティブストーリーの体裁を取りつつ、事件をあぶりだしていく内容で、モデルになった事件がある、という点でも共通している作品です。両作品共に俳優の身体の躍動を強く感じましたが、それが主人公の立場を微塵も脅かさない、傍観者としての身体が存在する、という点で上位に置くのをためらいました。『日本の悲劇』は良い作品だと思いますが、この主人公の倫理性をどう扱うのか。少し悩んでこの順位に滑り込ませました。
やや戦略めいていますが以上のような理由でベストテンを序列化しました。
選外作品で印象深いのは『もらとりあむタマ子』『四十九日のレシピ』『そして父になる』『ぼっちゃん』『百年の時計』『フィギュアなあなた』『遺体 -明日への十日間-』などです。
次に旧作について。去年はベストテンを書いていましたが、評価が定まっている作品も多いので印象に残った作品を挙げながら書きたいと思います。今年特に印象に残った旧作としてはなんといっても『Playback』(2012.三宅唱)が挙げられます。近々オーディトリウム渋谷で上映するようなのでぜひご覧になってください。まとまったものとしては、年始に深作欣二没後10年で『資金源強奪』の面白さを改めて認識し、相米慎二凱旋上映で大半の相米作品を鑑賞できたことは良かったです。6月に黒沢清をダラダラと見たのち、時間が空いて11月にはオーディトリウム渋谷で森崎東監督に圧倒され、そのまま現在に至っています。特に良かったのは『喜劇 特出しヒモ天国』(1975.東映)と『ロケーション』(1984.松竹)です。機会があったらぜひご覧になってください。その他には『シャブ極道』『童貞。をプロデュース』『かぞくのくに』『剣』が印象深いです。
洋画についても書こうと思いましたが長くなりましたので次回に続きます。某漫画で言うところの「もう少しだけ続くんぢゃ」です。では。
どうも、お年始です。喪中のため新年の挨拶は控えさせていただきますが、今年もよろしくお願いします。
映画鑑賞本数や個人的なランキングは「其の弐」に譲りますが、この一年、といってもここ2ヶ月くらいが中心になってしまいますが、で映画について、というか僕ら「見る立場」にとってつらつらと考えたことをダラダラ書き連ねたいと思います。結論は出ていません。
大晦日に『永遠の0』という映画を観て参りました。とあるシーンで非常に嫌悪感を覚えました。というのも、三浦春馬が合コンの場で「特攻と自爆テロは違う」さらに「特攻の目標である航空母艦は殺戮兵器だ」と。これを読んでいる方に個人的思想を押し付けるようになるのであまり詳しく書きたくはないのですが、どうしても特攻を肯定する発言は許せませんでした。
よってこの映画を「どうしようもないプロパガンダ映画」であると断罪することも、できます。しかし、少し足を止めてみると奇怪な話です。もし「倫理的に誤っている」ならばその映画は否定されるべきであるのか。「なんだ、そんな問題はD.W.グリフィスの『國民の創生』からまとわり付いている問題じゃないか」と言われるかもしれない。しかし今の日本でここまで顕在化するとは正直思わなかった。
話が堂々巡りしそうなので別の視点から見ましょう。『凶悪』という映画がありました。凄く面白い作品なのでぜひ観て欲しいですが、これを観たとき「果たしてこの映画の面白さは「社会派」としての面白さなのだろうか?」と思いました。転じて、「映画はその映画が『社会的に意義がある』という理由で評価されてはならない」とも思いました。たとえば熊井啓監督の作品、たびたび社会派映画として称揚されますがそれは単純にサスペンス映画としての面白さを内包しているからこそだと思います。
この問題を拡大していくと、「映画に対する我々の眼」はどこに置かれるべきなのか、という問題につながっていくと思います。
もう少し話を広げましょう。元日に『ゼロ・グラビティ』を観て来ました。映画の評価はともかく、この映画は確かに3Dで観る価値のある作品だと思います。特にケスラー・シンドロームによって爆発的に増加したスペースデブリがISSを破壊してさらに多量のデブリが生成され四方八方に飛散していくさまは本当に画面に飲み込まれそうになりました。さらにIMAXで観るのが最高ではないか、という話も聞きます。個人的にも映画は中央目線よりやや下に座って視野全体が画面で覆われるように観るのが好みです。しかし、ここでもちょっと待てよ、と。3D映画は既存の2D映画より少し高い、さらにIMAXシアターに至っては場所も限定される。では映画はそのような場所や料金による一種の「限定」言い換えれば「差別」を許容できるのでしょうか。それは究極の問題としては
・映画のプラットフォームとしての劇場の存在
・映画を自宅で鑑賞すること
の問題につながると思います。映画とは何かを考える上でプラットフォームの変容は絶対に見過ごせない問題です。
とにかくダラダラと昨年考えたことの一部を書いてみました。近日中には昨年の個人的な映画ベストテンについて囲うと思います、では。
2012年映画ランキング
新作篇トップ5
①『わが母の記』(監督=原田眞人)
②『アルゴ』(監督=ベン・アフレック)
③『黄金を抱いて翔べ』(監督=井筒和幸)
④『おだやかな日常』(監督=内田伸暉)
⑤『虹色ほたる~永遠の夏休み~』(監督=宇田鋼之介)
次点『のぼうの城』(監督=犬童一心・樋口真嗣)『鍵泥棒のメソッド』(監督=内田けんじ)『桐島、部活やめるってよ』(監督=吉田八大)
総評:
今年話題になった作品で、ランクから漏れたのは『キツツキと雨』『アウトレイジビヨンド』『最強のふたり』『天地明察』『終の信託』『北のカナリアたち』『あなたへ』『おおかみこどもの雨と雪』『ももへの手紙』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』、未見作品の『夢売るふたり』『ヘルタースケルター』『苦役列車』『PlayBack』『レ・ミゼラブル』『007/スカイフォール』など。洋画は鑑賞本数がそもそも少ないので何も言えないが、邦画に関して言えばベテラン監督がやや精彩を欠いた印象がある。特に降旗康男の『あなたへ』はかなり痛々しい作品で高倉健の存在感が逆に作品の流れを阻害するという結果を生み出してしまっている。一方で若手~中堅監督の作品に光るものが多くそういった意味では2013年以降も彼らの動きには要注目だ。
各評:
次点に三本も入れるのはやり過ぎだと思いつつ、どうしてもそれぞれ多少なりとも瑕のある作品であり、一方でおもしろさに関しては甲乙つけがたい。『のぼうの城』はそれまでの樋口作品に見られた「くどさ」が緩和され、良質のエンターテインメントになっていたが榮倉奈々演じる姫の立ち位置がイマイチなのと、水攻め以降の若干のテンポの悪さが目についた。『鍵泥棒のメソッド』は快テンポの詐欺コメディ映画(『スティング』とかあの類だ)だが、ややメロドラマ寄りの作品になりすぎた感はある(特に広末涼子まわりの内容があまり充実していない)。『桐島~』は間違いなく2012年の映画批評界ではベスト級の扱いを受けるだろうし、自分も見た順番によってはランクインさせていたかもしれない。しかしながら、自分としては「映画の特権化」という藤井仁子の言葉が引っかかりランクインさせることを躊躇った。
さて、上位5本はどれもあまりヒットしていない(①除く)作品たちなので感想を一言ずつに留め、とにかく見てほしいと思う。
⑤は今年公開のアニメーション映画では間違いなくベストであり、未来へのまなざしはどの作品よりも明確だった。
④は原発を舞台にしているように見えるが実際はすれ違い映画の系譜ともいえる新しい映画。
③はとにかく井筒らしいアクション映画だ。
②は有無を言わせず必見の大傑作。
①はバタくささが目につきがちな原田眞人が一皮むけたウェルメイドな一本。
ランク外の作品についてもう少し。そこそこの評価は受けているようだが『アウトレイジビヨンド』は悪い意味で小さくまとまっており評価し難い。『終の信託』はフジテレビの宣伝が悪い面も多分にあるがやはり前半が長すぎる。『北のカナリアたち』はミステリーとしてはかなり悲惨な出来だった。『おおかみこども』『ヱヴァ:Q』に関してはまだ困惑しており評価が全く定まらない。理由は述べないが、ランク外からあえて一本サルベージするとすれば『GOTHICMADE:花の詩女』(監督=永野護)を挙げよう。おすすめはしない。
旧作邦画篇トップ10(順不同・年代順)
『鴛鴦歌合戦』(1939年・監督=マキノ正博)
『しとやかな獣』(1962年・監督=川島雄三)
『乱れる』(1964年・監督=成瀬巳喜男)
『博奕打ち・総長賭博』(1968年・監督=山下耕作)
『御用金』(1969年・監督=五社英雄)
『顔役』(1971年・監督=勝新太郎)
『実録・私設銀座警察』(1973年・監督=佐藤純弥)
『北陸代理戦争』(1977年・監督=深作欣二)
『雪の断章-情熱-』(1985年・監督=相米慎二)
『3-4x 10月』(1990年・監督=北野武)
次点『(ハル)』(1996年・監督=森田芳光)『徳川一族の崩壊』(1980年・監督=山下耕作)『冬の華』(1979年・監督=降旗康男)
感想:
すでに評価が固まっている作品も多いので順不同で印象的だった作品をリストアップ。ランクインしていない作品でも『黒蜥蜴』や『桜の代紋』などが印象に残った。上から順に一言感想。『鴛鴦歌合戦』は瞠目するほどすばらしきオペレッタ映画。『しとやかな獣』はとにかく会話劇の妙を堪能。『乱れる』は想定外の加山雄三の好演。『博奕打ち・総長賭博』はやっぱり鶴田浩二がいい。『御用金』、五社演出は多少くどいがそれがいい方向に出たのが本作だと思う。『顔役』は映画をここまで破壊するかと驚嘆。『実録・私設銀座警察』今年のオールタイムベスト級の怪作、神波史男さんの仕事の中でも悪魔的魅力を放つ。『北陸代理戦争』最後まで深作演出は快調であった。『雪の断章』心に大きなしこりを残すアイドル映画、相米演出のドライブ感は凄い。『3-4x 10月』個人的にはいままで見たタケシ映画で一番面白かった。次点の3本は思いつくのが遅かっただけでトップテンと遜色ない作品。何本かは現在視聴が大変な作品もあるがぜひ見てほしい。
(本当はロマンポルノ作品と堀川弘通作品を一本くらい入れたかったが泣く泣くこんな感じに。あえて一本ずつ挙げるとすれば『ラスト・キャバレー』と『青い野獣』ということになる。)
最後に:
2012年はおそらく過去最高の年間鑑賞本数180本(劇場80本,DVD・テレビ100本)という中だったので選考次点で今までよりも遙かに充実していた。名画座がいくつか閉館するという悲しい事態も発生しており、フィルムからデジタルへ、という流れはもはや止めようもなくなってきているが、今年も少しでも多く劇場で映画をたくさん見られれば、と思う。
改めて、本年もよろしくお願いいたします。