ホームドラマ時代劇「武士の家計簿」
05 23, 2011
監督:森田芳光
出演:堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、中村雅俊 ほか
加賀藩の「御算用者」を担っていた猪山家。その8代目・猪山直之のもと、膨大に膨れ上がった猪山家の借金返済に一家を挙げて奔走する姿と彼らの家族模様、そして藩内の政争や幕末維新の動乱に否応なく巻き込まれながらもそれを乗り越えてゆく直之と息子・成之や家族の姿を描く。
今回、たまにはテクニカルな面から批評を試みてみたいと思います。特に昨日講演していただいた田中誠監督がおっしゃっていた「モンタージュ」や「セリフ」に注目してみます。
1、同ポジション
この作品、予算もかなり低めだと思われますが結構な場面で同ポジションが用いられています。たとえば猪山家の朝御飯のシーン。僕が数えたところ下座にカメラを配置するカットが4箇所ありました。これについて言うと、1、2回目は共に後ろの掛け軸などの家財道具が揃っているのに対し、3回目つまり家財道具を売り払った後はしっかり後ろにあった家財道具一切がなくなっています。これをすることではっきり視覚的に家から様々なことが無くなったことが分かる。非常に効果的な演出だと思いました。
しかもここで重要なのは決してバックの背景たる部屋の奥にはピントを合わせていないこと。さりげなく匂わせる演出はさすがベテラン森田監督です。
そして4カット目では手前に映る人間が変化している。上座には堺雅人が、そして左手下座の二人分がポッカリ空いている。
この空気感もなかなか良いです。
2、月
映画中盤、中村雅俊が直吉をおぶって月の満ち欠けの説明をする。その直後に中村雅俊は死んでしまうわけだが、月の満ち欠けに注目してみると面白いことが分かる。最初に登場したときの月は半月。葬式の際の月は半月より大きい。つまりこれで若干の時間を経て中村が亡くなったことが分かる。その後も月は何度も登場するがいずれも形が違う。時の経過を月で表すのは非常にクレバーだと思いました。
3、その他気になった演出
松坂慶子が亡くなる際に仲間由紀恵が服を持ってくる。このとき「借金もなくなった」と堺が言う。その後家財道具に注目してみるとちゃんと段々増えていっている。
他に、最後に川のシーン。堺雅人を息子がおぶう、というのは前半にあった「鯛じゃ鯛じゃ」のシーンの逆で、しかもさりげなく(と思ったけどこの直後に非常に残念な演出がある)額の傷まで映すという、極めて多重的に意味を持たせてちゃんとラストをキレイに終わらせている。
4、残念な部分
まず大島ミチルの音楽が必要以上に暗い。そして、なによりセリフが一言多い、田中誠監督風に言うなら「共同テレビ」な感じで「絶滅させたい」演出。あれだけ似たようなカメラポジションでやればいくらなんでも分かるのにわざわざ回想を入れちゃう。もったいない!
あと成之の生死が不明になるとこ。結局もう成之は生きてることが冒頭で分かりきってるんだから感情的盛り上がりはそこに発生する余地もなく、のちのカットとのつながりも不自然で丸々カットしても問題ない気がする。
5、その他もろもろ
嶋田久作が出てきて「君は明治政府に必要だ」というシーン。見た瞬間、「加藤保憲!お前、のちのち竜脈使って東京滅ぼそうとしたじゃねえか!」と帝都物語ファンにしかわからないツッコミを入れてしまったw
あと森田監督ほんと横レイアウト好きだよね、「家族ゲーム」が有名だけど今作も横レイアウトばっかり、悪いわけじゃないんだけどさ。
全体的に上げ下げに関しても撮影に関しても無理をしていない、監督が自分に理解できない演出をしていない感じがするのはとってもグー。傑作とはいかないまでも佳作の出来ではなかろうか。
出演:堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、中村雅俊 ほか
加賀藩の「御算用者」を担っていた猪山家。その8代目・猪山直之のもと、膨大に膨れ上がった猪山家の借金返済に一家を挙げて奔走する姿と彼らの家族模様、そして藩内の政争や幕末維新の動乱に否応なく巻き込まれながらもそれを乗り越えてゆく直之と息子・成之や家族の姿を描く。
今回、たまにはテクニカルな面から批評を試みてみたいと思います。特に昨日講演していただいた田中誠監督がおっしゃっていた「モンタージュ」や「セリフ」に注目してみます。
1、同ポジション
この作品、予算もかなり低めだと思われますが結構な場面で同ポジションが用いられています。たとえば猪山家の朝御飯のシーン。僕が数えたところ下座にカメラを配置するカットが4箇所ありました。これについて言うと、1、2回目は共に後ろの掛け軸などの家財道具が揃っているのに対し、3回目つまり家財道具を売り払った後はしっかり後ろにあった家財道具一切がなくなっています。これをすることではっきり視覚的に家から様々なことが無くなったことが分かる。非常に効果的な演出だと思いました。
しかもここで重要なのは決してバックの背景たる部屋の奥にはピントを合わせていないこと。さりげなく匂わせる演出はさすがベテラン森田監督です。
そして4カット目では手前に映る人間が変化している。上座には堺雅人が、そして左手下座の二人分がポッカリ空いている。
この空気感もなかなか良いです。
2、月
映画中盤、中村雅俊が直吉をおぶって月の満ち欠けの説明をする。その直後に中村雅俊は死んでしまうわけだが、月の満ち欠けに注目してみると面白いことが分かる。最初に登場したときの月は半月。葬式の際の月は半月より大きい。つまりこれで若干の時間を経て中村が亡くなったことが分かる。その後も月は何度も登場するがいずれも形が違う。時の経過を月で表すのは非常にクレバーだと思いました。
3、その他気になった演出
松坂慶子が亡くなる際に仲間由紀恵が服を持ってくる。このとき「借金もなくなった」と堺が言う。その後家財道具に注目してみるとちゃんと段々増えていっている。
他に、最後に川のシーン。堺雅人を息子がおぶう、というのは前半にあった「鯛じゃ鯛じゃ」のシーンの逆で、しかもさりげなく(と思ったけどこの直後に非常に残念な演出がある)額の傷まで映すという、極めて多重的に意味を持たせてちゃんとラストをキレイに終わらせている。
4、残念な部分
まず大島ミチルの音楽が必要以上に暗い。そして、なによりセリフが一言多い、田中誠監督風に言うなら「共同テレビ」な感じで「絶滅させたい」演出。あれだけ似たようなカメラポジションでやればいくらなんでも分かるのにわざわざ回想を入れちゃう。もったいない!
あと成之の生死が不明になるとこ。結局もう成之は生きてることが冒頭で分かりきってるんだから感情的盛り上がりはそこに発生する余地もなく、のちのカットとのつながりも不自然で丸々カットしても問題ない気がする。
5、その他もろもろ
嶋田久作が出てきて「君は明治政府に必要だ」というシーン。見た瞬間、「加藤保憲!お前、のちのち竜脈使って東京滅ぼそうとしたじゃねえか!」と帝都物語ファンにしかわからないツッコミを入れてしまったw
あと森田監督ほんと横レイアウト好きだよね、「家族ゲーム」が有名だけど今作も横レイアウトばっかり、悪いわけじゃないんだけどさ。
全体的に上げ下げに関しても撮影に関しても無理をしていない、監督が自分に理解できない演出をしていない感じがするのはとってもグー。傑作とはいかないまでも佳作の出来ではなかろうか。