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『ぼっちゃん』

03 23, 2013
2013年・日本 製作:有限会社アパッチフィルム
音楽:大友良英
脚本・監督:大森立嗣
出演:水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛 ほか

 
 大森監督の新作、しかも秋葉原無差別殺傷事件を題材にしたということで気になりユーロスペースに見に行った。単純に語れるような類の映画ではないと思うし、僕もあまりうまく語る自信がないのでまずは観ている最中に思い出した映画を並べてみよう。

(順不同)『僕達急行 A列車で行こう』『ウルトラミラクルラブストーリー』『ファイトクラブ』『冷たい熱帯魚』『苦役列車』『横道世之介』
      『タクシードライバー』...etc

 なんとなく並べると分かるが、どれも「主人公がフツウじゃない映画」である。その系統の中にたぶん自然と落とし込んでみていたのだろうが、後半どことなくそれらの映画とのズレを感じてきた、というか今まで観てきたどの映画とも似ていないと感じるようになったため『タクシードライバー』以外の要素を自分の中から捨てたことは覚えている。

 さて、改めて感想に入ろう。やはりこの映画は主人公である梶くん(水澤紳吾)の視点から見るのが一番素直だろう。梶くんは「イケメソ」などの言葉を使う2ch脳のくせに「フィーリングカップル」とか口走ってしまう、意外と俗っぽい男。ここまで酷くはないにしろこういう奴はよくいるのだ,実は。そして本当は自分のことが大好きなんだけど斜に構えて自己否定的なことを言ってしまう、いちばんモテないタイプだ。そんな彼が愚直だけどいい奴(案外こういう奴はモテるのだ)の田中くん(宇野祥平)と会って変化する...はずがない。お互い傷をなめ合う中、とはよく言うがこの二人の友情は「お互い傷口にに塩を塗り合う」つまり自傷の見せ合いをするような関係だ。しかし、カレーライスのエピソードはすばらしい。
 そこに田村愛が絡み、三角関係となって一気に物語が回転し始める。案外と普遍的なことを描いてるのだ、この映画。更にサイコキラーの岡田くん改め黒岩くん(淵上泰史)が絡み物語はカオス状態を保ったままクライマックスのラブホテルへ。梶くんが黒岩側についた時、思わず「よし、一気に二人をやれ!!」とか思っちゃったぞ、それまでフラストレーションがたまっていただけに夜間車中で黒岩と梶くんが語らうシーンは嵐の前の静寂といった感じでよい。
この映画の終盤、詳しくは書かないが僕は勝手に『「逆」タクシードライバー』と呼ばせて貰う。つまりデニーロがハーヴェイ・カイテルの味方になってジョディ・フォスターを殺しに来たのだ。自己愛のなれの果てに他者の愛を否定する梶くん。だが結局彼がああいった行動に出るのはどこかに「自分が人を愛してもいい」と思っていたからだろうか。ラストシーンのハンドブレーキによる決別はあくまで踏みとどまった彼の意志を示すのだろうか、正しいはずなのにフラストレーションがたまるのだが。

 さて、二回連続で意味の分からん感想になってしまったが劇中たびたび見られる「叫び」について。叫びは抑圧が限界に達したときの爆発として表象されるが、では梶くんはなにに「抑圧」されているのだろうか。おそらくは「否定的な自分自身」であろう。彼はいじめられたり彼女ができないのを自分が「生きてはいけない人間」であるからだ、と暗示することで回避しようとしている。しかし、その自己逃避は結局自分の行動の枷となった。そして彼にとって名状しがたい喪失となって現前したのだ。そしてその損失を生み出した、自分を縛ったあらゆるものからの脱却のためにこそ最後の叫びはあるのであろう。そういった意味では彼は秋葉原で通り魔をする以上に「爆発」しているのだ。
 この映画は現代的であり、なお普遍的な究極の人間ドラマと言えよう。やっぱりうまく言葉にならなかったが今回はとりあえずこれで締めとする。

P.S.大友良英による全篇にわたる不穏な音楽は実にすばらしかった。また、田中くんが田村愛の心を射止めたときの、梶くんに向ける勝ち誇った顔にこのドラマの真髄を見た気がする。
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